て暫《しば》らく庭《には》の騷《さわ》ぎを見《み》て居《ゐ》たが寮《れう》の内《うち》に※[#「煢−冖」、第4水準2−79−80]然《ぽつさり》として居《ゐ》る卯平《うへい》を見出《みいだ》して圍爐裏《ゐろり》に近《ちか》く迫《せま》つた。
「爺《ぢい》くんねえか」と彼《かれ》は又《また》何時《いつ》ものやうに卯平《うへい》に甘《あま》えた。卯平《うへい》は其《その》聲《こゑ》を聞《き》いても暫《しばら》く蹙《しが》んだ儘《まゝ》で居《ゐ》た。
 立春《りつしゆん》の日《ひ》を過《す》ぎてから、却《かへつ》て黄昏《たそがれ》の果敢《はか》ない薄《うす》い光《ひかり》の空《そら》に吹《ふ》き落《お》ちる筈《はず》の西風《にしかぜ》が何《なに》を憤《いか》つてか吹《ふ》いて/\吹《ふ》き捲《まく》つて、夜《よ》に渡《わた》つても幾日《いくにち》か止《や》まぬ程《ほど》な稀有《けう》な現象《げんしやう》に伴《ともな》うて、鬼怒川《きぬがは》の淺瀬《あさせ》が氷《こほり》に閉《とざ》されて、軈《やが》て氷《こほり》の塊《かたまり》が流《なが》れたといふ噂《うはさ》が立《た》つたことがあつた。卯
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