春《はる》の徴候《きざし》でなければならなかつた。
然《しか》しながら卯平《うへい》は只《たゞ》獨《ひと》り其《その》群《むれ》に加《くは》はらなかつた。老人等《としよりら》の勢《いきほ》ひがごつと庭《には》に移《うつ》つた時《とき》寮《れう》の内《うち》は其《そ》の騷《さわ》ぎの聲《こゑ》が一|杯《ぱい》に襲《おそ》ひ來《き》て喧《やかま》しいにも拘《かゝは》らず寂《さび》しかつた。圍爐裏《ゐろり》の火《ひ》も灰《はひ》が白《しろ》く掩《おほ》うて滅切《めつきり》と衰《おとろ》へた。卯平《うへい》は凝然《ぢつ》と腕《うで》を拱《こまね》いた儘《まゝ》眼《め》を蹙《しか》めて燃《も》え退《の》いた薪《まき》をすら突《つ》き出《だ》さうとしなかつた。彼《かれ》には庭《には》の節制《だらし》のない騷《さわ》ぎの聲《こゑ》が其《そ》の耳《みゝ》を支配《しはい》するよりも遠《とほ》く且《かつ》遙《はるか》な闇《やみ》に何物《なにもの》をか搜《さが》さうとしつゝあるやうに只《たゞ》惘然《ばうぜん》として居《ゐ》るのであつた。與吉《よきち》は紙包《かみづゝ》みの小豆飯《あづきめし》を盡《つく》し
前へ
次へ
全956ページ中769ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング