徳利《とつくり》一|本《ぽん》づつしかへえんねえから面倒臭《めんだうくさ》かんべと思《おも》つてよ」と婆《ばあ》さんはいひながら、一|旦《たん》沸《たぎ》つた鐵瓶《てつびん》を懸《か》けた。樽《たる》が空虚《から》になつて悉皆《みんな》飮《の》む者《もの》は銘酊《よつぱら》つてがや/\と只《たゞ》騷《さわ》いだ。
卯平《うへい》は圍爐裏《ゐろり》の側《そば》を離《はな》れずにむつゝりとして杯《さかづき》をとらぬ婆《ばあ》さん等《ら》と火《ひ》にあたりながら、煙管《きせる》を持《も》たぬ所在《しよざい》なさに麁朶《そだ》の先《さき》を折《を》つて其《その》癖《くせ》の舌《した》を鳴《な》らしつゝ齒齦《はぐき》をつゝいて居《ゐ》た。彼《かれ》は悉皆《みんな》が騷《さわ》いで居《ゐ》る間《ま》に自分《じぶん》の腹《はら》に足《た》りるだけの鮨《すし》や惚菜《そうざい》やらを箸《はし》に挾《はさ》んで杯《さかづき》へは手《て》を觸《ふ》れようとしなかつた。老人等《としよりら》は自分《じぶん》の騷《さわ》ぐ方《はう》にばかり心《こゝろ》を奪《うば》はれて卯平《うへい》のことはそつちのけにした儘
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