「そんなんぢやねえのとれな」勘次《かんじ》は大《おほ》きなのを選《えら》んで三つとつた。卵《たまご》の皮《かは》には手《て》の鹽《しほ》が少《すこ》し附《つ》いた。
「そんぢやそれ掛《か》けてんべ」商人《あきんど》は今度《こんど》は眞鍮《しんちう》の皿《さら》へ卵《たまご》を乘《の》せて
「こつちなんぞぢや、後《あと》幾《いく》らでも出來《でき》らあな」といひながらたどり[#「たどり」に傍点]を持《も》つた。卵《たまご》が少《すこ》し動《うご》くと秤《はかり》の棹《さを》がぐら/\と落付《おちつ》かない。
「誤魔化《ごまくわ》しちや厭《や》だぞ」お品《しな》は寂《さび》しく笑《わら》ひながらいつた。
「どうしておめえ、此《こ》の秤《はかり》なんざあ檢査《けんさ》したばかりだもの一|分《ぶ》でも此《こ》の通《とほ》り跳《は》ねたり垂《た》れたりして、どうして飛《と》んだ噺《はなし》だ」商人《あきんど》は分銅《ふんどう》の手《て》を抑《おさ》へて又《また》目《め》を讀《よ》んだ。
「五十|匁《もんめ》一|分《ぶ》だな、さうすつと一《ひと》つ十六|匁《もんめ》七|分《ぶ》づゝだ、大《え》
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