りや八|厘《りん》として貰《もら》つてな」と商人《あきんど》は財布《さいふ》から自分《じぶん》の手《て》へ錢《ぜに》を明《あ》けた。
「お品《しな》おめえ自分《じぶん》でも喰《く》つたらよかねえけ、幾《いく》つでも取《と》つて置《お》けな」勘次《かんじ》は鹽《しほ》だらけにした手《て》を止《と》めて遠《とほ》くから呶鳴《どな》つた。
「此《こ》の錢《ぜに》で外《ほか》の物《もの》買《か》つて喰《く》つた方《はう》がえゝから此《こ》れ丈《だけ》は遣《や》るとすべえよ、折角《せつかく》勘定《かんぢやう》もしたもんだからよ、俺《お》ら大層《たえそ》よくなつたんだから大丈夫《だえぢよぶ》だよ」お品《しな》はいつた。
「そんなこといはねえで幾《いく》つでも取《と》つて置《お》けよ、癒《なほ》り際《ぎは》が氣《き》を附《つ》けねえぢやえかねえもんだから」勘次《かんじ》は漬菜《つけな》の手《て》を放《はな》して檐下《のきした》へ來《き》た。手《て》も足《あし》も茹《ゆ》でたやうに赤《あか》くなつて居《ゐ》る。
「それぢやちつとも殘《のこ》したものかな」お品《しな》は小《ちひ》さなのを二つ取《と》つた
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