《かれ》の輕微《けいび》な瘡痍《きず》を假令《たとひ》表面《へうめん》だけでも好《い》いから思《おも》ひ切《き》つて重《おも》く見《み》てさうして彼《かれ》に同情《どうじやう》の言葉《ことば》を惜《をし》まないものを求《もと》めたが、彼《かれ》には些少《すこし》でも其《その》顛末《てんまつ》を聞《き》いてくれべきものは醫者《いしや》と南《みなみ》の亭主《ていしゆ》とより外《ほか》はなかつた。然《しか》し餘《あま》りに能《よ》く瘡痍《きず》其《その》物《もの》の性質《せいしつ》を識別《しきべつ》した醫者《いしや》は、彼《かれ》に其《その》果敢《はか》ない心《こゝろ》を訴《うつた》へる餘裕《よゆう》を與《あた》へずに彼《かれ》を頭《あたま》から壓《おさへ》る樣《やう》に揶揄《からか》うた。彼《かれ》は其處《そこ》に何物《なにもの》をも得《え》ないで遁《にげ》るやうに珊瑚樹《さんごじゆ》の木蔭《こかげ》を出《で》た。南《みなみ》の亭主《ていしゆ》も殊更《ことさら》に彼《かれ》に同情《どうじやう》して慰藉《ゐしや》の言辭《ことば》を惜《をし》まぬ程《ほど》其《その》心《こゝろ》が動《うご》かさ
前へ
次へ
全956ページ中729ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング