あつた。
「なあにわしやはあ、嚊《かゝあ》に死《し》なれてから七八|年《ねん》にもなんでがすから」勘次《かんじ》は少《すこ》し苦笑《くせう》していつた。
「さうか、そんぢや誰《だれ》に打《ぶ》たれたえ、まあだ壯《さかり》だからそんでも何處《どこ》へか拵《こしら》えたかえ」輕微《けいび》な瘡痍《きず》を餘《あま》りに大袈裟《おほげさ》に包《つゝ》んだ勘次《かんじ》の容子《ようす》を心《こゝろ》から冷笑《れいせう》することを禁《きん》じなかつた醫者《いしや》はかう揶揄《からか》ひながら口髭《くちひげ》を捻《ひね》つた。
「先生《せんせい》さん戯談《じやうだん》いつて、なあにわしや爺樣《ぢいさま》に打《ぶ》たれたんでさ」勘次《かんじ》は只管《ひたすら》に醫者《いしや》の前《まへ》に追求《つゐきう》の壓迫《あつぱく》から遁《のが》れようとするやうにいつた。
 醫者《いしや》はそれからはもう默《だま》つて藥《くすり》を貼《は》つて形《かた》ばかりの繃帶《ほうたい》をした。
「先生《せんせい》さん、わしやまあだ來《き》なくつちやなりあんすめえか」勘次《かんじ》は懸念《けねん》らしい目《め》を以《も
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