そんしつ》を顧《かへり》みる餘裕《よゆう》を有《も》たぬ程《ほど》惑亂《わくらん》し溷濁《こんだく》して居《ゐ》た。白晝《ひる》の日《ひ》は横頬《よこほゝ》に暑《あつ》い程《ほど》に射《さ》し掛《か》けたが周圍《あたり》は依然《やつぱり》冷《つめ》たかつた。堀《ほり》の淺《あさ》い水《みづ》には此《こ》れも冷《つめ》たげに凝然《ぢつ》と身《み》を沈《しづ》めた蛙《かへる》が默《だま》つて彼《かれ》を見《み》て居《ゐ》た。遠《とほ》い田圃《たんぼ》を彼《かれ》は前後《ぜんご》に只《たゞ》一人《ひとり》の行人《かうじん》であつた。遙《はるか》にぽつり/\と見《み》える稻刈《いねかり》の百姓《ひやくしやう》は※[#「煢−冖」、第4水準2−79−80]然《ぽつさり》とした彼《かれ》の目《め》から隱《かく》れようとする樣《やう》に悉皆《みんな》ずつと低《ひく》く身《み》を屈《かゞ》めて居《ゐ》る。明《あか》るい光《ひかり》に滿《み》ちた田圃《たんぼ》を其《そ》の惑亂《わくらん》し溷濁《こんだく》した心《こゝろ》を懷《いだ》いて寂《さび》しく歩數《あゆみ》を積《つ》んで行《ゆ》く彼《かれ》は、玻璃
前へ 次へ
全956ページ中700ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング