勘次《かんじ》は俵《たはら》の側《そば》な[#「な」に「ママ」の注記]手桶《てをけ》の蓋《ふた》をとつて
「此《こ》りや蒟蒻《こんにやく》だな」といつた。
「俺《お》らそれ仕入《しいれ》たつきり起《おき》られねえんだよ」お品《しな》は枕《まくら》を手《て》で動《うご》かしていつた。勘次《かんじ》は又《また》葢《ふた》をした。
靜《しづ》かな空《そら》をぢり/\と移《うつ》つて行《ゆ》く日《ひ》が傾《かたぶ》いたかと思《おも》ふと一|散《さん》に落《お》ちはじめた。冬《ふゆ》の日《ひ》はもう短《みじか》い頂點《ちやうてん》に達《たつ》して居《ゐ》るのである。勘次《かんじ》はまだ日《ひ》が有《あ》るからといつて鍬《くは》を擔《かつ》いで麥畑《むぎばたけ》へ出《で》た。然《しか》し幾《いく》らも耕《たがや》さぬうちに日《ひ》は落《お》ちて俄《には》かに冷《つめ》たく成《な》つた世間《せけん》は暗澹《あんたん》として來《き》た。お品《しな》は勘次《かんじ》を出《だ》して酷《ひど》く遣瀬《やるせ》ないやうな心持《こゝろもち》になつて、雨戸《あまど》を引《ひか》せて闇《くら》い方《はう》へ向《む
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