おつぎは八釜敷《やかましく》勘次《かんじ》に使《つか》はれて晝《ひる》の間《あひだ》は寸暇《すんか》もなかつた。夜《よ》がひつそりとする頃《ころ》はおつぎは能《よ》く卯平《うへい》の小屋《こや》へ來《き》て惱《なや》んで居《ゐ》る腰《こし》を揉《も》んでやつた。おつぎは卯平《うへい》を勦《いたは》るには幾《いく》ら勘次《かんじ》が八釜敷《やかましく》ても一々|斷《ことわ》りをいうては出《で》なかつた。勘次《かんじ》はおつぎが暫時《しばし》でも居《ゐ》なくなると假令《たとひ》卯平《うへい》の側《そば》に居《ゐ》るとは知《し》つても
「おつう」と例《いつも》のやうに激《はげ》しく呶鳴《どな》つて見《み》るのである。
「此處《こゝ》に居《ゐ》たよ、そんなに喚《よ》ばらなくつたつてえゝから、何《なん》だかおとつゝあは」おつぎの勘次《かんじ》を叱《しか》る聲《こゑ》は軟《やはら》かでさうして明瞭《めいれう》に勘次《かんじ》の耳《みゝ》に響《ひび》いた。勘次《かんじ》は手《て》ランプの光《ひかり》に只《たゞ》目《め》が酷《ひど》く光《ひか》るのみで一|言《ごん》もなく屏息《へいそく》して畢《しま
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