例《れい》であるが、與吉《よきち》は自分《じぶん》で錢《ぜに》を出《だ》さうとして胴亂《どうらん》の大《おほ》きな金具《かなぐ》が容易《ようい》に開《あ》かないので怒《おこ》つて投《な》げ出《だ》して見《み》たり、卯平《うへい》へ縋《すが》つたりした。卯平《うへい》は態《わざ》と與吉《よきち》に倒《たふ》されて轉《ころ》がることもあつた。
 勘次《かんじ》は與吉《よきち》が卯平《うへい》から錢《ぜに》を貰《もら》ふことを知《し》つてから只《たゞ》さへ滅多《めつた》にくれたことのない彼《かれ》は決《けつ》して一|度《ど》も與《あた》へることがなかつた。卯平《うへい》はそれを知《し》つてさへ與吉《よきち》に要求《えうきう》されることが却《かへつ》て彼《かれ》の爲《ため》にはどれ程《ほど》の慰藉《ゐしや》であるか知《し》れないのであつた。卯平《うへい》は悲慘《みじめ》な隱居《いんきよ》に移《うつ》るまでには野田《のだ》から持《も》つて來《き》た少《すこ》し許《ばか》りの蓄《たくは》へは幾《いく》らも財布《さいふ》に残《のこ》つては居《ゐ》なかつた。彼《かれ》は俄《にはか》に思《おも》ひ出《だ
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