此《こ》の朝《あさ》になつてからもお品《しな》の容態《ようだい》がいゝので勘次《かんじ》はほつと安心《あんしん》した。さうして斜《なゝめ》に遠《とほ》くから射《さ》す冬《ふゆ》の日《ひ》を浴《あ》びながら庭葢《にはぶた》の上《うへ》に筵《むしろ》を敷《し》いて俵《たはら》を編《あ》みはじめた。薦《こも》つくこは兩端《りやうたん》に足《あし》が附《つ》いて居《い》る。丁度《ちやうど》荷鞍《にぐら》の骨《ほね》のやうな簡單《かんたん》な道具《だうぐ》である。其《その》足《あし》から足《あし》へ渡《わた》した棒《ぼう》へ藁《わら》を一掴《ひとつか》みづゝ當《あ》てゝは八人坊主《はちにんばうず》をあつちへこつちへ打《ぶ》つ違《ちが》ひながら繩《なは》を締《し》めつゝ編《あ》むのである。八人坊主《はちにんばうず》といふのは其《その》繩《なは》を捲《ま》いたいはゞ小《ちひ》さな錘《おもり》である、八《やつ》つあるので八人坊主《はちにんばうず》といつて居《ゐ》る。小作米《こさくまい》を入《い》れる藁俵《わらだはら》を四五|俵分《へうぶん》作《つく》らねば成《な》らぬことが稼《かせ》ぎに出《で》る時《
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