彼《かれ》は自分《じぶん》が居《ゐ》る内《うち》は容易《ようい》に罎《びん》の分量《ぶんりやう》が減《へ》らないのに、一|日《にち》餘處《よそ》へ行《い》つて居《ゐ》た日《ひ》は滅切《めつきり》と少《すくな》くなつて居《ゐ》るのを或《ある》時《とき》ふと發見《はつけん》して少《すこ》し不快《ふくわい》に且《かつ》變《へん》に思《おも》ひつゝあつた。繩《なは》で括《くゝ》つた別《べつ》の罎《びん》の底《そこ》の方《はう》に醤油《しやうゆ》が少《すこ》しあつた。卯平《うへい》はそれでも其《そ》れを見《み》つけて漸《やうや》く蕎麥掻《そばがき》の味《あぢ》を補《おぎな》つた。罎《びん》の底《そこ》になつた醤油《しやうゆ》は一|番《ばん》の醤油粕《しやうゆかす》で造《つく》り込《こ》んだ安物《やすもの》で、鹽《しほ》の辛《から》い味《あぢ》が舌《した》を刺戟《しげき》するばかりでなく、苦味《にがみ》さへ加《くは》はつて居《ゐ》る。彼等《かれら》は平生《へいぜい》さういふ醤油《しやうゆ》でも滅多《めつた》に用《もち》ゐないので多量《たりやう》に求《もと》める時《とき》でも十|錢《せん》を越《こ》
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