ぶん》をば凝然《ぢいつ》と見《み》もせぬ卯平《うへい》の目《め》から外《そ》れるやうに、餘所《よそ》を見《み》ては又《また》ちらと卯平《うへい》を見《み》つゝあつたが此《この》時《とき》おつぎの手許《てもと》へ嘴《くちばし》を容《い》れた。其《そ》の時《とき》醤油《しやうゆ》がごつと出《で》て菜漬《なづけ》が漂《たゞよ》ふばかりに成《な》つた。
「そうれ見《み》ろ」勘次《かんじ》はそつけなくいつた。おつぎが罎《びん》を再《ふたゝ》び柱《はしら》の傍《そば》へ置《お》くと、
「まだ其處《そこ》で引《ひ》つくるけえしちや大變《たえへん》だぞ、戸棚《とだな》へでも入《せ》えて置《お》け」勘次《かんじ》は復《ま》た注意《ちうい》した。卯平《うへい》は藥罐《やくわん》の湯《ゆ》を注《つ》いで三|杯《ばい》を喫《きつ》した。僅《わづか》に醤油《しやうゆ》の味《あぢ》のみが數年來《すうねんらい》の彼《かれ》の舌《した》に好味《かうみ》たるを失《うしな》はなかつたが、挽割麥《ひきわりむぎ》の勝《か》つた粗剛《こは》い飯《めし》は齒齦《はぐき》が到底《たうてい》それを咀嚼《そしやく》し能《あた》はぬので
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