て見《み》ねえか、野田《のだ》でも一|番《ばん》うめえんだから」卯平《うへい》はいつたがおつぎの手《て》が暇《ひま》どれるので自分《じぶん》で手拭《てぬぐひ》を解《と》いて勘次《かんじ》の前《まへ》へ出《だ》して、彼《かれ》は更《さら》に一|枚《まい》をとつて與吉《よきち》へ遣《や》つた。
「よき、それ貰《もら》あもんだ。爺《ぢい》呉《く》れるつちのに」おつぎは茶碗《ちやわん》を卯平《うへい》と勘次《かんじ》との前《まへ》へ据《す》ゑつゝいつた。
「こつちへ上《あが》つて貰《もら》あもんだ」勘次《かんじ》もいつた。土間《どま》に立《た》つて居《ゐ》た與吉《よきち》はそつと草履《ざうり》を脱《ぬ》いで危險相《あぶなさう》に手《て》を出《だ》して取《とつ》た。さうして直《す》ぐに偸《ぬす》むやうに噛《か》んだ。
「遠《とほ》くの方《はう》のがんだぞ、汝《われ》うまかんべ」おつぎは自分《じぶん》も一|枚《まい》を噛《かじ》り乍《なが》らいつた。
「うまかねえやそんなに」與吉《よきち》はおつぎの袂《たもと》へ隱《かく》れるやうにしていつた。甘味《あまみ》の強《つよ》い菓子《くわし》を噛《か》ん
前へ 次へ
全956ページ中538ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング