ら彼《かれ》は草鞋《わらぢ》をとつた。乾《かわ》いた道《みち》を歩《ある》いて來《き》たので幾《いく》らも汚《よご》れない足《あし》の底《そこ》を二三|度《ど》づゝ手《て》でこすつて座敷《ざしき》へ上《あが》つた。
勘次《かんじ》は南《みなみ》の風呂《ふろ》へ行《い》つて居《ゐ》た。彼《かれ》は晝《ひる》は寸暇《すんか》をも惜《をし》んで勞働《らうどう》をするので一つには其《そ》れが夜《よ》なべの仕事《しごと》を勵《はげ》み得《え》ない程《ほど》の疲勞《ひらう》を覺《おぼ》えしめて居《ゐ》るのでもあるが、少《すこ》し懷《ふところ》が窮屈《きうくつ》でなくなつてからは長《なが》い夜《よ》の休憇時間《きうけいじかん》には滅多《めつた》に繩《なは》を綯《な》ふこともなく風呂《ふろ》に行《い》つては能《よ》く噺《はなし》をしながら出殼《でがら》の茶《ちや》を啜《すゝ》つた。
其《その》夜《よ》與吉《よきち》は南《みなみ》の女房《にようばう》から薄荷《はくか》の入《はひ》つた駄菓子《だぐわし》を二つばかり貰《もら》つた。裏《うら》の垣根《かきね》から桑畑《くはばたけ》を越《こ》えて歩《ある》
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