財布《せえふ》にやまあだ有《あ》るよ、七日《なぬか》ばかり働《はたら》えてそれでも二|兩《りやう》は殘《のこ》つたかんな、そんで又《また》行《い》く筈《はず》で前借《さきがり》少《すこ》しして來《き》たんだ、こつちの方《はう》から行《い》つてる連中《れんぢう》が保證《ほしよう》してくれてな」勘次《かんじ》は誇《ほこ》り顏《がほ》にいつた。
「俺《お》ら今日《けふ》見《み》てえだらえゝが、酷《ひど》く行逢《いきや》ひたくなつてなあ」お品《しな》は俯伏《うつぶ》した額《ひたひ》を枕《まくら》につけた。
「どうせ此處《ここ》らの始末《しまつ》もしねえで行《い》つたんだから、一遍《いつぺん》は途中《とちう》で歸《けえ》つて見《み》なくつちや成《な》らねえのがだから同《おな》じ事《こと》だよ」勘次《かんじ》はお品《しな》を覗《のぞ》き込《こむ》やうにしていつた。
「それでも俵《たはら》にしちや置《お》いたな」勘次《かんじ》は壁際《かべぎは》の麥藁俵《むぎわらだはら》を見《み》ていつた。お品《しな》はまだ俯伏《うつぶ》した儘《まゝ》である。
「あつちに居《ゐ》ちや錢《ぜに》は要《え》らねえな、煙草
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