ゆう》で見付《みつ》けて來《き》たんだから一|疋《ぴき》やつて見《み》ねえか」勘次《かんじ》は手《て》ランプをお品《しな》の枕元《まくらもと》へ持《も》つて來《き》て鰯《いわし》の包《つゝみ》を解《と》いた。鰯《いわし》は手《て》ランプの光《ひかり》できら/\と青《あを》く見《み》えた。
「ほんによなあ」お品《しな》は俯伏《うつぶ》しになつて恁《か》ういつた。
「おつう、其處《そこ》へ火《ひ》でも吹《ふ》つたけて見《み》ねえか」勘次《かんじ》はいつた。
「勘次《かんじ》さんそら大變《たいへん》だつけな、俺《お》らそんなにや要《え》らなかつたな」
「今《いま》だから何時《いつ》までも保《も》つよ、さうしてお前《めえ》も力《ちから》つけろな」
「汽船《じようき》に乘《の》つて來《き》たつて餘《よ》つ程《ぽど》費用《かゝり》も掛《かゝ》つたんべな」
「さうよ、二人《ふたり》で六十|錢《せん》ばかりだが此《これ》は俺《おれ》出《だ》したのよ、南《みなみ》に出《だ》させる譯《わけ》にも行《え》かねえかんな」
「それぢや稼《かせ》えだ錢《ぜね》それだけ立投《たてなげ》にしつちやつたな」
「そんでも
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