決《けつ》して餘裕《よゆう》を存《そん》しては居《ゐ》なかつた。野田《のだ》は郷里《きやうり》からは比較的《ひかくてき》近《ちか》いので醤油藏《しやうゆぐら》が段々《だん/\》發達《はつたつ》して行《ゆ》くに連《つ》れて傭《やと》はれて行《ゆ》く壯丁《わかもの》が殖《ふ》えて來《き》た。郷里《きやうり》では傭人《やとひにん》の給料《きふれう》が暴騰《ばうとう》して來《き》た程《ほど》どの村落《むら》からも壯丁《わかもの》が行《い》つた。其《そ》れが頻《しき》りに交代《かうたい》されるので、卯平《うへい》は一|度《ど》しか郷里《きやうり》の土《つち》を踏《ふ》まなくても種々《しゆ/″\》の變化《へんくわ》を耳《みゝ》にした。彼《かれ》は一|番《ばん》おつぎのことが念頭《ねんとう》に浮《うか》ぶ。十七の秋《あき》に見《み》たおつぎの姿《すがた》がお品《しな》に能《よ》くも似《に》て居《ゐ》たことを思《おも》ひ出《だ》しては、他人《ひと》の噂《うはさ》も聞《き》いて見《み》て時々《とき/″\》は逢《あ》つても見《み》たい心持《こゝろもち》がした。然《しか》しお品《しな》が死《し》んだ時《とき
前へ 次へ
全956ページ中518ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング