だんべ兼《かね》さんは、他人《ひと》のこと本當《ほんたう》に」とおつぎは手桶《てをけ》を置《お》いて水《みづ》に泛《うか》んだ青《あを》い※[#「柿」の正字、第3水準1−85−57]《かき》を兼《かね》博勞《ばくらう》へ投《な》げた。
「兼《かね》さんすつかり惚《ほれ》られつちやつた」と風呂桶《ふろをけ》の傍《そば》からいつた。おつぎは顏《かほ》を赧《あか》くして慌《あわたゞ》しく手桶《てをけ》を持《も》つて遁《に》げた。一|杯《ぱい》に汲《く》んだ手桶《てをけ》の水《みづ》が少《すこ》し波立《なみだ》つて滾《こぼ》れた。風呂桶《ふろをけ》の傍《そば》では四十五十に成《な》る百姓《ひやくしやう》も居《ゐ》て一同《みんな》が愉快相《ゆくわいさう》にどよめいた。おつぎが手桶《てをけ》を持《も》つた時《とき》勘次《かんじ》は裏戸《うらど》の垣根口《かきねぐち》にひよつこりと出《で》た。彼《かれ》は衣物《きもの》を換《か》へに桑畑《くはばたけ》の小徑《こみち》を越《こ》えて自分《じぶん》の家《うち》へ行《い》つたのであつた。彼《かれ》は風呂《ふろ》の側《そば》の騷《さわ》ぎをちらと耳《みゝ》に
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