き[#「よき」に傍点]は」おつぎは甘《あま》やかすやうにいつた。お品《しな》にはそれが能《よ》く聞《きこ》えて二人《ふたり》がどんなことをして居《ゐ》るのかゞ分《わか》つた。お品《しな》の耳《みゝ》には續《つゞ》いて
「ぽうんとしたか、そらそつちへ行《い》つちやつた」といふ聲《こゑ》がしたかと思《おも》ふと
「こんだはぽうんとすんぢやねえかんな」といふ聲《こゑ》やそれから又《また》
「それ持《も》ち出《だ》すんぢやねえ、聽《き》かねえと此《これ》で切《き》つてやんぞ、赤《あか》まんまが出《で》るぞおゝ痛《いて》え」抔《など》とおつぎのいふのが聞《きこ》えた。其《その》度《たび》に庖丁《はうちやう》の音《おと》が止《や》む。お品《しな》には與吉《よきち》が惡戯《いたづら》をしたり、おつぎが痛《いた》いといつて指《ゆび》を啣《くは》へて見《み》せれば與吉《よきち》も自分《じぶん》の手《て》を口《くち》へ當《あて》て居《ゐ》るのが目《め》に見《み》えるやうである。お品《しな》はおつぎを平常《ふだん》から八釜敷《やかましく》して居《ゐ》たので餘所《よそ》の子《こ》よりも割合《わりあひ》に動《う
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