た時《とき》鷄《にはとり》が復《ま》た甲走《かんばし》つて鳴《な》いた。お品《しな》はおつぎを今朝《けさ》は緩《ゆつ》くりさせてやらうと思《おも》つて居《ゐ》た。それでもおつぎは鷄《にはとり》が又《また》鳴《な》いた時《とき》むつくり起《お》きた。いつもと違《ちが》つて餘《あま》りひつそりして居《ゐ》るので驚《おどろ》いたやうにあたりを見《み》た。さうしてお袋《ふくろ》がまだ自分《じぶん》の傍《そば》に蒲團《ふとん》へくるまつてるのを見《み》た。
「おつう、せかねえでもえゝぞ、俺《お》ら今朝《けさ》少《すこ》し工合《ぐえゝ》が惡《わり》いから緩《ゆつ》くりすつかんなよ」お品《しな》はいつた。おつぎは暫《しばら》くもぢ/\しながら帶《おび》を締《しめ》て大戸《おほど》を一|枚《まい》がら/\と開《あ》けて目《め》をこすりながら庭《には》へ出《で》た。井戸端《ゐどばた》の桶《をけ》には芋《いも》が少《すこ》しばかり水《みづ》に浸《ひた》してあつて、其《その》水《みづ》には氷《こほり》がガラス板《いた》位《ぐらゐ》に閉《と》ぢて居《ゐ》る。おつぎは鍋《なべ》をいつも磨《みが》いて居《ゐ》る砥
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