に月《つき》は竊《ひそか》に隣《となり》の森《もり》の輪郭《りんくわく》をはつきりとさせて其《その》森《もり》の隙間《すきま》が殊《こと》に明《あか》るく光《ひか》つて居《ゐ》た。世間《せけん》がしみ/″\と冷《ひ》えて居《ゐ》た。お品《しな》は薄《うす》い垢《あか》じみた蒲團《ふとん》へくるまると、身體《からだ》が又《また》ぞく/\として膝《ひざ》か[#「か」に「ママ」の注記]しらが氷《こほ》つたやうに成《な》つて居《ゐ》たのを知《し》つた。

         二

 次《つぎ》の朝《あさ》お品《しな》はまだ戸《と》の隙間《すきま》から薄《うす》ら明《あか》りの射《さ》したばかりに眼《め》が覺《さ》めた。枕《まくら》を擡《もた》げて見《み》たが頭《あたま》の心《しん》がしく/\と痛《いた》むやうでいつになく重《おも》かつた。狹《せば》い家《いへ》の内《うち》に羽叩《はばた》く鷄《にはとり》の聲《こゑ》がけたゝましく耳《みゝ》の底《そこ》へ響《ひゞ》いた。おつぎはまだすや/\として眠《ねむ》つて居《ゐ》る。戸《と》の隙間《すきま》が瞼《まぶた》を開《ひら》いたやうに明《あか》るくなつ
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