わしも此《こ》れからは決《けつ》して他人《たにん》の物《もの》は塵《ちり》つ葉《ぱ》一|本《ぽん》でも盜《と》りませんからどうぞ」
 と勘次《かんじ》は有繋《さすが》に泣《な》いた。彼《かれ》はまだお品《しな》が死《し》んだ年《とし》の小作米《こさくまい》の滯《とゞこほ》りも拂《はら》つてはないし、加之《それのみでなく》卯平《うへい》から譲《ゆづ》られた借財《しやくざい》の残《のこ》りもちつとも極《きま》りがついて無《な》いのに又《また》今度《こんど》の間違《まちがひ》から僅《わづか》ながら新《あらた》な負擔《ふたん》が加《くは》はつたのである。彼《かれ》が懸命《けんめい》の勞働《らうどう》は舊《きう》に倍《ばい》して著《いちじ》るしく人《ひと》の目《め》に立《た》つた。
 或《ある》日《ひ》主人《しゆじん》の内儀《かみ》さんは偶然《ひよつ》とした機會《はづみ》があつて勘次《かんじ》に噺《はなし》をした。
「あれでなか/\おつぎにも驚《おどろ》いたもんだね」内儀《かみ》さんはいつた。
「はあどうか仕《し》あんしたんべか、お内儀《かみ》さん」勘次《かんじ》は怪訝《けげん》な容子《ようす》
前へ 次へ
全956ページ中328ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング