。船頭《せんどう》はがらつと戸《と》を開《あ》けて、人《ひと》の走《はし》つたやうな響《ひゞ》きが明《あきら》かに耳《みゝ》に感《かん》じたので、遙《はるか》に闇《くら》い土手《どて》を透《すか》して見《み》てぶつ/\いひながら彼《かれ》は更《さら》に豚小屋《ぶたごや》に近《ちか》づいて燐寸《マツチ》をさつと擦《す》つて見《み》て「油斷《ゆだん》なんねえ」と呟《つぶや》いて又《また》戸《と》を閉《と》ぢた。彼《かれ》は内職《ないしよく》に飼《か》つた豚《ぶた》が近頃《ちかごろ》子《こ》を生《う》んだので他人《たにん》が覘《ねらひ》はせぬかと懸念《けねん》しつゝあつたのである。おつぎは何處《どこ》でも構《かま》はぬと土手《どて》の篠《しの》を分《わ》けて一《ひと》つ/\に蜀黍《もろこし》の穗《ほ》を力《ちから》の限《かぎ》り水《みづ》に投《とう》じた。おつぎは空《から》な草刈籠《くさかりかご》を脊負《せお》つて急《いそ》いで歸《かへ》つた。
おつぎがこと/\と叩《たゝ》いた時《とき》内儀《かみ》さんは直《すぐ》に戸《と》を開《あ》けて
「どうしたい、大變《たいへん》遲《おそ》かつたね」
前へ
次へ
全956ページ中322ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング