。其《そ》れ程《ほど》ならば何故《なぜ》彼《かれ》は蜀黍《もろこし》の穗《ほ》を伐《き》ることを敢《あへ》てしたのであつたらうか。彼《かれ》は此《こ》れまでも畑《はたけ》の物《もの》を盜《と》つたのは一|度《ど》や二|度《ど》ではない。其《そ》れは些少《させう》であつたが彼《かれ》は盜《と》りたくなつた時《とき》機會《きくわい》さへあれば何時《いつ》でも盜《と》りつゝあつたのである。彼《かれ》は身《み》を殺《ころ》さうとまで其《そ》の薄弱《はくじやく》な意思《いし》が少《すこ》しのことにも彼《かれ》を苦《くる》しめる時《とき》、彼《かれ》を衝動《そそ》つて盜性《たうせい》がむか/\と首《くび》を擡《もた》げつゝあつたのである。勘次《かんじ》はもう仕事《しごと》をする處《どころ》ではない。彼《かれ》は到底《たうてい》寸時《すんじ》も其《そ》の家《いへ》に堪《た》へられなく成《な》つて、隣《となり》の彼《かれ》の主人《しゆじん》に縋《すが》らうとした。其《そ》の閾《しきゐ》を越《こ》すことが彼《かれ》にはどれ程《ほど》辛《つら》かつたか知《し》れぬ。主人《しゆじん》は不在《ふざい》であつた
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