しゆじん》は出《で》なかつた。内儀《かみ》さんが出《で》た。勘次《かんじ》は益《ます/\》萎《しほ》れた。
「勘次《かんじ》、お前《まへ》まあそれを置《お》いて此處《こゝ》へ掛《か》けて見《み》たらどうだね」内儀《かみ》さんはいつた。勘次《かんじ》はそれでも只《たゞ》立《た》つて居《ゐ》る。
「品物《しなもの》は此《これ》だけなんでしたらうか」内儀《かみ》さんは巡査《じゆんさ》に聞《き》いた。
「此《こ》の位《くらゐ》のものらしいやうでしたな、案外《あんぐわい》少《すくな》かつたんですな」巡査《じゆんさ》は手帖《ててふ》を反覆《くりかへ》しながらいつた。
「さうでございますか」内儀《かみ》さんは巡査《じゆんさ》に會釋《ゑしやく》してさうして
「どうしたね勘次《かんじ》、恁《か》うして連《つ》れて來《こ》られてもいゝ心持《こゝろもち》はすまいね」といつた。藁草履《わらざうり》を穿《は》いた勘次《かんじ》の爪先《つまさき》に涙《なみだ》がぽつりと落《お》ちた。
「こんなことでお前《まへ》世間《せけん》が騷《さわ》がしくて仕《し》やうがないのでね、私《わたし》の處《ところ》でも本當《ほんたう
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