角《かく》明日《あす》のことにするからといつた丈《だけ》だといふ返辭《へんじ》である。勘次《かんじ》はげつそりとして家《うち》へ歸《かへ》ると蒲團《ふとん》を被《かぶ》つて畢《しま》つた。おつぎは自分《じぶん》も毎日《まいにち》行《い》つて居《ゐ》たので開墾地《かいこんち》から運《はこ》んだ櫟《くぬぎ》の根《ね》は皆《みな》知《し》つて居《ゐ》る。おつぎは其《そ》の櫟《くぬぎ》の根《ね》を獨《ひと》りで竊《ひそか》に引《ひ》き出《だ》した。さうして黄昏時《たそがれどき》におつぎはそれを草刈籠《くさかりかご》へ入《い》れて後《うしろ》の竹藪《たけやぶ》の中《なか》の古井戸《ふるゐど》へ投《な》げ落《おと》した。古井戸《ふるゐど》は暗《くら》くして且《かつ》深《ふか》い。おつぎは冷《つめ》たい雨《あめ》に沾《ぬ》れてさうして少《すこ》し縮《ちゞ》れた髮《かみ》が亂《みだ》れてくつたりと頬《ほゝ》に附《つ》いて足《あし》には朽《く》ちた竹《たけ》の葉《は》がくつゝいて居《ゐ》る。
「おとつゝあ」おつぎは勘次《かんじ》を喚《よ》び起《おこ》した。
「俺《お》ら櫟《くぬぎ》根《ね》つ子《こ》うつ
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