ゝあ、どうしたもんだべな」おつぎは聞《き》いた。
「俺《お》ら旦那《だんな》に見放《みはな》されちや、迚《とつて》も助《たす》かれめえ」勘次《かんじ》は漸《やうや》く此《こ》れだけいつた。
「おとつゝあ、それぢや旦那《だんな》げ謝罪《あやま》つたらどうしたもんだんべ」
「そんなことゆつたつて、聽《き》くか聽《き》かねえか分《わか》るもんか」
「南《みなみ》のおとつゝあげでも頼《たの》んで見《み》たらどうしたもんだんべ」
「汝等《わつら》頼《たの》まなくつたつてえゝから」
「そんぢやおとつゝあ、櫟《くぬぎ》の根《ね》つ子《こ》せえなけりやえゝんだんべか」
「そんだつて汝《われ》は駐在所《ちうざいしよ》に見《み》られつちやつたもの仕《し》やうあるもんか」
 勘次《かんじ》はそれでも他《た》に分別《ふんべつ》もないので仕方《しかた》なしに桑畑《くはばたけ》を越《こえ》て南《みなみ》へ詑《わび》を頼《たの》みに行《い》つた。彼《かれ》は古《ふる》い菅笠《すげがさ》を一寸《ちよつと》頭《あたま》へ翳《かざ》して首《くび》を蹙《ちゞ》めて行《い》つた。主人《しゆじん》の挨拶《あいさつ》は兎《と》に
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