《うご》かしちやならないからな」巡査《じゆんさ》はいつた。勘次《かんじ》は蒼《あを》くなつた。
「此《こ》らわしが貰《もら》つて掘《ほ》つたんでがすから何處《どこ》と何處《どこ》つて穴《あな》つ子《こ》までちやんと分《わか》つてんでがすから」彼《かれ》は慌《あわ》てゝいつた。
「そんなことはどうでもいゝんだ、動《うご》かすなといつたら動《うご》かさなけりやいゝんだ」
 巡査《じゆんさ》は呼吸《いき》で霧《きり》のやうに少《すこ》し霑《ぬ》れた口髭《くちひげ》を撚《ひね》りながら
「櫟《くぬぎ》の根《ね》が大分《だいぶ》あるやうだな」といひ棄《す》てゝ去《さ》つた。勘次《かんじ》は雨《あめ》に打《う》たれつゝ喪心《さうしん》したやうに庭《には》に立《た》つて居《ゐ》る。戸口《とぐち》の蔭《かげ》に隱《かく》れて聞《き》いて居《ゐ》たおつぎは巡査《じゆんさ》の去《さ》つた後《のち》漸《やうや》く姿《すがた》を表《あら》はした。
「おとつゝあ」と小聲《こごゑ》で喚《よ》んだ。
「そんだから俺《お》ら持《も》つて來《く》んなつてゆつたのに」更《さら》に小聲《こごゑ》でおつぎはいつた。
「おとつ
前へ 次へ
全956ページ中224ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング