《い》つた。其《そ》の日《ひ》は朝《あさ》から雨《あめ》なので勘次《かんじ》は仕事《しごと》にも出《で》られず、火鉢《ひばち》へ少《すこ》しづゝ木《き》の根《ね》を燻《く》べてあたつて居《ゐ》た。
「雨《あめ》で困《こま》つたな、勘次《かんじ》は大分《だいぶ》勉強《べんきやう》する相《さう》だな」巡査《じゆんさ》は帶劍《たいけん》の鞘《さや》を掴《つか》んでいつた。
「へえ」勘次《かんじ》は急《きふ》に膝《ひざ》を立《た》て直《なほ》した。表《おもて》の戸口《とぐち》へひよつこり現《あらは》れた巡査《じゆんさ》の、外套《ぐわいたう》の頭巾《づきん》を深《ふか》く被《かぶ》つて居《ゐ》る顏《かほ》が勘次《かんじ》には只《たゞ》恐《おそ》ろしく見《み》えた。さうして其《そ》の聲《こゑ》が刺《とげ》を含《ふく》んで響《ひゞ》いた。巡査《じゆんさ》はぶらりと家《いへ》の横手《よこて》へ行《い》つて壁際《かべぎは》の木《き》の根《ね》を見《み》た。勘次《かんじ》は巡査《じゆんさ》の後《あと》から跟《つ》いて行《い》つた。
「大分《だいぶ》有《あ》るな、此《こ》れは又《また》わしの來《く》るまで動
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