を暖《あたゝ》めた。彼《かれ》は近來《きんらい》にない心《こころ》の餘裕《よゆう》を感《かん》じた。然《しか》しさういふ僅《わづか》な彼《かれ》に幸《さいは》ひした事柄《ことがら》でも幾《いく》らか他人《たにん》の嫉妬《しつと》を招《まね》いた。他《た》の百姓《ひやくしやう》にも悶躁《もが》いて居《ゐ》る者《もの》は幾《いく》らもある。さういふ伴侶《なかま》の間《あひだ》には僅《わづか》に五|圓《ゑん》の金錢《かね》でもそれは懷《ふところ》に入《はひ》つたとなれば直《すぐ》に世間《せけん》の目《め》に立《た》つ。彼等《かれら》は幾《いく》らづゝでも自分《じぶん》の爲《ため》になることを見出《みいだ》さうといふことの外《ほか》に、目《め》を峙《そばた》てゝ周圍《しうゐ》に注意《ちうい》して居《ゐ》るのである。彼等《かれら》は他人《ひと》が自分《じぶん》と同等《どうとう》以下《いか》に苦《くるし》んで居《ゐ》ると思《おも》つて居《ゐ》る間《あひだ》は相互《さうご》に苦《くるし》んで居《ゐ》ることに一|種《しゆ》の安心《あんしん》を感《かん》ずるのである。然《しか》し其《そ》の一人《ひとり》
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