《おく》れになつた藁《わら》では立派《りつぱ》な製作《せいさく》は得《え》られないのである。それであるのに彼等《かれら》は肥料《ひれう》の缺乏《けつばふ》を訴《うつた》へつゝ其《そ》の藁屑《わらくづ》や粟幹《あはがら》や其《そ》の他《た》のものが庭《には》に散《ち》らばつて居《ゐ》ても容易《ようい》にそれを始末《しまつ》しようとしない。他人《ひと》の注意《ちうい》を受《う》けてもそれでも改《あらた》めることをしない。彼等《かれら》は苦《くる》しい時《とき》に苦《くる》しむことより外《ほか》に何《なん》にも知《し》ることがないのである。
 勘次《かんじ》も彼等《かれら》の仲間《なかま》である。然《しか》しながら彼《かれ》は境遇《きやうぐう》の異常《いじやう》な刺戟《しげき》から寸時《すんじ》も其《そ》の身《み》を安住《あんぢゆう》せしむる餘裕《よゆう》を有《も》たなかつた。彼《かれ》も他《た》の貧乏《びんばふ》な百姓《ひやくしやう》のするやうに冬《ふゆ》の季節《きせつ》になれば薪《たきゞ》を採《と》つて壁《かべ》に積《つ》んで置《お》くことをした。彼《かれ》は近來《きんらい》に成《な》つ
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