ぐにはおつぎの姿《すがた》も見《み》えなかつたのである。戸口《とぐち》からではおつぎの身體《からだ》は竈《かまど》の火《ひ》を掩《おほ》うて居《ゐ》た。返辭《へんじ》すると共《とも》に身體《からだ》を捩《ねぢ》つたので其《その》赤《あか》い火《ひ》が見《み》えたのである。
おつぎの脊《せ》に居《ゐ》た與吉《よきち》はお品《しな》の聲《こゑ》を聞《き》きつけると
「まん/\ま」と兩手《りやうて》を出《だ》して下《お》りようとする。お品《しな》はおつぎが帶《おび》を解《と》いてる間《あひだ》に壁際《かべぎは》の麥藁俵《むぎわらだはら》の側《そば》へ蒟蒻《こんにやく》の手桶《てをけ》を二つ並《なら》べた。與吉《よきち》はお袋《ふくろ》の懷《ふところ》に抱《だ》かれて碌《ろく》に出《で》もしない乳房《ちぶさ》を探《さぐ》つた。お品《しな》は竈《かまど》の前《まへ》へ腰《こし》を掛《か》けた。白《しろ》い鷄《にはとり》は掛梯子《かけばしご》の代《かはり》に掛《か》けてある荒繩《あらなは》でぐる/\捲《まき》にした竹《たけ》の幹《みき》へ各自《てんで》に爪《つめ》を引《ひ》つ掛《か》けて兩方《り
前へ
次へ
全956ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング