こ》でそく/\とならした。お品《しな》の姿《すがた》が庭《には》に見《み》えた時《とき》には西風《にしかぜ》は忘《わす》れたやうに止《や》んで居《ゐ》て、庭先《にはさき》の栗《くり》の木《き》にぶつ懸《か》けた大根《だいこ》の乾《から》びた葉《は》も動《うご》かなかつた。白《しろ》い鷄《にはとり》はお品《しな》の足《あし》もとへちよろ/\と駈《か》けて來《き》て何《なに》か欲《ほ》し相《さう》にけろつと見上《みあげ》た。お品《しな》は平常《いつも》のやうに鷄《にはとり》抔《など》へ構《かま》つては居《ゐ》られなかつた。お品《しな》は戸口《とぐち》に天秤《てんびん》を卸《おろ》して突然《いきなり》
「おつう」と喚《よ》んだ。
「おつかあか」と直《すぐ》におつぎの返辭《へんじ》が威勢《ゐせい》よく聞《きこ》えた。それと同時《どうじ》に竈《かまど》の火《ひ》がひら/\と赤《あか》くお品《しな》の目《め》に映《うつ》つた。朝《あさ》から雨戸《あまど》は開《あ》けないので内《うち》はうす闇《くら》くなつて居《ゐ》る。外《そと》の光《ひかり》を見《み》て居《ゐ》たお品《しな》の目《め》には直《す》
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