から林《はやし》へ還《かへ》りつゝある。お品《しな》は非常《ひじやう》な注意《ちうい》を以《もつ》て斜《なゝめ》な橋《はし》を渡《わた》つた。四足目《よあしめ》にはもう田圃《たんぼ》の土《つち》に立《た》つた。其《その》時《とき》は日《ひ》は疾《とう》に沒《ぼつ》して見渡《みわた》す限《かぎ》り、田《た》から林《はやし》から世間《せけん》は只《たゞ》黄褐色《くわうかつしよく》に光《ひか》つてさうしてまだ明《あか》るかつた。お品《しな》は田圃《たんぼ》からあがる前《まへ》に天秤《てんびん》を卸《おろ》して左《ひだり》へ曲《まが》つた。自分《じぶん》の家《いへ》の林《はやし》と田《た》との間《あひだ》には人《ひと》の足趾《あしあと》だけの小徑《こみち》がつけてある。お品《しな》は其《その》小徑《こみち》と林《はやし》との境界《さかひ》を劃《しき》つて居《ゐ》る牛胡頽子《うしぐみ》の側《そば》に立《たつ》た。鷄《にはとり》の爪《つめ》の趾《あと》が其處《そこ》の新《あた》らしい土《つち》を掻《か》き散《ち》らしてあつた。お品《しな》は土《つち》を手《て》で聚《あつ》めて草履《ざうり》の底《そ
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