おら》がにや此《こ》んぢや引《ひ》きじるやうぢやあんめえか」おつぎはそれから手《て》で釣《つ》るして見《み》たりした。
「藏《しま》つて置《お》いて、俺《お》らいまつと大《えか》く成《な》つてから着《き》べかな」
「どうでも汝《われ》がもんだから汝《われ》が好《す》きにしろな」勘次《かんじ》はおつぎの手《て》が動《うご》くに從《したが》つて目《め》を移《うつ》した。手《て》ランプのぼうと立《た》つ油煙《ゆえん》がほぐれた髮《かみ》へ靡《なび》き掛《かゝ》るのも知《し》らずにおつぎはそつちこつちへ單衣《ひとへ》を弄《いぢ》つて居《ゐ》た。
「汝《われ》うつかりして、そうれ燃《も》えつちまあぞ」勘次《かんじ》は油煙《ゆえん》が復《ま》た傾《かたむ》いた時《とき》慌《あわ》てゝおつぎの髮《かみ》へ手《て》を當《あ》てゝいつた。

         七

 勘次《かんじ》の田畑《たはた》は晩秋《ばんしう》の收穫《しうくわく》がみじめなものであつた。それは氣候《きこう》が惡《わる》いのでもなく、又《また》土地《とち》が惡《わる》いのでもない。耕耘《かううん》の時期《じき》を逸《いつ》して居《ゐ》
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