あんだから」
 おつぎは出《で》る時《とき》に吹消《ふつけし》たブリキの手《て》ランプを點《つ》けて、まだ容子《ようす》がはき/\としなかつた。勘次《かんじ》は先刻《さつき》の風呂敷包《ふろしきづゝみ》を解《と》いた。小《ちひ》さく疊《たゝ》んだ辨慶縞《べんけいじま》の單衣《ひとへ》が出《で》た。
「汝《われ》げ此《これ》遣《や》んべと思《おも》つて持《も》つて來《き》たんだ。此《こ》んでもなよ、おつかゞ地絲《ぢいと》で織《お》つたんだぞ、今《いま》ぢや絲《いと》なんぞ引《ひ》くものなあねえが、おつか等《ら》毎晩《まいばん》のやうに引《ひ》いたもんだ、紺《こん》もなあ能《よ》うく染《そ》まつてつから丈夫《ぢやうぶ》だぞ、おつかは幾《いく》らも引《ひ》つ掛《かけ》ねえつちやつたから、まあだまるつきり新《あたら》しいやうだ見《み》ろ、どうした手《て》ランプまつとこつちへ出《だ》して見《み》せえまあ」勘次《かんじ》は單衣《ひとへ》を少《すこ》し開《ひら》いて鼻《はな》へ當《あて》て臭《にほひ》を嗅《か》いで見《み》た。
「ちつたあ黴臭《かびくさ》くなつたやうだが、そんでも此《この》位《くれえ
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