包《ふろしきづゝみ》を持《も》つて歸《かへ》つた。彼《かれ》が戸口《とぐち》に立《た》つた時《とき》は家《うち》の内《なか》は眞闇《まつくら》で一寸《ちよつと》は物《もの》の見分《みわけ》もつかなかつた。
 草臥《くたび》れ切《き》つた身體《からだ》で彼《かれ》は其《その》夜《よ》も二人《ふたり》を連《つ》れて、自分《じぶん》の所有《もの》ではない其《その》茂《しげ》つた小《ちひ》さな桑畑《くはばたけ》を越《こ》えて南《みなみ》の風呂《ふろ》へ行《い》つた。其處《そこ》にはいつものやうに風呂《ふろ》を貰《もら》ひに女房等《にようばうら》が聚《あつま》つて居《ゐ》た。
「能《よ》くなあ、おつうはよき[#「よき」に傍点]こと面倒《めんだう》見《み》んな、女《をんな》の子《こ》は斯《か》うだからいゝのさな、直《す》ぐ役《やく》に立《た》つかんな」女房《にようばう》の一人《ひとり》がいつた。
「おつぎはどうしたんでえ、今夜《こんや》ひどく威勢《ゐせえ》惡《わり》いな」他《た》の女房《にようばう》がいつた。
「先刻《さつき》俺《おれ》に打《ぶ》つとばされたかんでもあんべえ」勘次《かんじ》は苦笑《
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