で火《ひ》の點《つ》いたやうに泣《な》き出《だ》したのである。おつぎは啜《すゝ》り泣《な》きしながら與吉《よきち》を抱《だ》いた。
「お袋《ふくろ》もねえのにおめえいゝ加減《かげん》にしろよ、可哀想《かあいさう》ぢやねえか、そんなことしておめえ幾《いく》つだと思《おも》ふんだ、さう自分《じぶん》の氣《き》のやうに出來《でき》るもんぢやねえ、佛《ほとけ》の障《さはり》にも成《な》んべぢやねえか」隣畑《となりばたけ》の百姓《ひやくしやう》はいつた。勘次《かんじ》は默《だま》つて畢《しま》つて何《なん》ともいはなかつた。與吉《よきち》はおつぎに抱《だ》かれたので、おつぎの目がまだ濕《うる》うて居《ゐ》るうちに泣《な》き止《やん》だ。
勘次《かんじ》は其《そ》の日《ひ》の夕方《ゆふがた》おつぎが晩餐《ゆふめし》の支度《したく》に立《た》つた時《とき》自分《じぶん》も一《ひと》つに家《うち》へ戻《もど》つた。
彼《かれ》は膝《ひざ》がしらで四《よ》つ偃《ばひ》に歩《ある》きながら座敷《ざしき》へあがつて財布《さいふ》を懷《ふところ》へ捩《ね》ぢ込《こ》んでふいと出《で》た。彼《かれ》は風呂敷
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