つた白《しろ》い穗《ほ》から僅《わづか》に其《そ》の被《かぶ》つた手拭《てぬぐひ》と肩《かた》とが表《あら》はれて居《ゐ》る。與吉《よきち》は道《みち》の側《はた》の薦《こも》の上《うへ》に大人《おとな》しくして居《ゐ》る。おつぎの白《しろ》い手拭《てぬぐひ》が段々《だん/\》麥《むぎ》の穗《ほ》に隱《かく》れると與吉《よきち》は姉《ねえ》ようと喚《よ》ぶ。おつぎはおういと返辭《へんじ》をする。おつぎの聲《こゑ》が聞《きこ》えると與吉《よきち》は凝然《ぢつ》として居《ゐ》る。勘次《かんじ》は畦間《うねま》を作《つく》りあげてそれから自分《じぶん》も忙《いそが》しく大豆《だいづ》を落《おと》し初《はじ》めた。勘次《かんじ》は間懶《まだる》つこいおつぎの手《て》もとを見《み》て其《そ》の畝《うね》をひよつと覗《のぞ》いた。種《たね》と種《たね》との間隔《かんかく》が不平均《ふへいきん》で四|粒《つぶ》も五|粒《つぶ》も一つに落《お》ちてる處《ところ》があつた。
「此《こ》のざまはどうしたんだ、こんなこつて生計《くらし》が出來《でき》つか」と呶鳴《どな》りながら彼《かれ》は突然《とつぜん》お
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