ひやくしやう》は皆《みな》自分《じぶん》の手足《てあし》に不足《ふそく》を感《かん》ずる程《ほど》忙《いそが》しくなる。勘次《かんじ》は一|意《い》只《たゞ》仕事《しごと》の手後《ておく》れになるのを怖《おそ》れた。草臥《くたび》れても疲《つか》れても彼《かれ》は毎日《まいにち》未明《みめい》に起《お》きて夜《よ》まで其《そ》の手足《てあし》を動《うご》かして止《や》まぬ。おつぎも其《そ》の後《あと》に跟《つ》いて草臥《くたび》れた身體《からだ》を引《ひ》きずられた。晩餐《ゆふめし》の支度《したく》に與吉《よきち》を負《お》うて先《さき》へ歸《かへ》るのがおつぎにはせめてもの骨休《ほねやす》めであつた。
 勘次《かんじ》は麥《むぎ》の間《あひだ》へ大豆《だいづ》を蒔《ま》いた。畦間《うねま》へ淺《あさ》く堀《ほり》のやうな凹《くぼ》みを拵《こしら》へてそこへぽろ/\と種《たね》を落《おと》して行《ゆ》く。勘次《かんじ》はぐい/\と畦間《うねま》を掘《ほ》つて行《ゆ》く。後《あと》からおつぎが種《たね》を落《おと》した。おつぎのまだ短《みじか》い身體《からだ》は麥《むぎ》の出揃《でそろ》
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