開《あ》かない目《め》をこすつて井戸端《ゐどばた》へ行《ゆ》く。蓬々《ぼう/\》と解《と》けた髮《かみ》へ櫛《くし》を入《い》れて冷《つめ》たい水《みづ》へ手《て》を入《い》れた時《とき》おつぎは漸《やうや》く蘇生《いきかへ》つたやうになる。それでも目《め》はまだ赤《あか》くて態度《たいど》がふら/\と懶相《だるさう》である。
「さあ、飯《おまんま》出來《でき》たぞ」勘次《かんじ》は釜《かま》から茶碗《ちやわん》へ飯《めし》を移《うつ》す。さうして自分《じぶん》で農具《のうぐ》を執《と》つておつぎへ持《も》たせてそれからさつさと連《つ》れ出《だ》すのである。
籾種《もみだね》がぽつちりと水《みづ》を突《つ》き上《あ》げて萌《も》え出《だ》すと漸《やうや》く強《つよ》くなつた日光《につくわう》に緑《みどり》深《ふか》くなつた嫩葉《わかば》がぐつたりとする。軟《やはら》かな風《かぜ》が凉《すゞ》しく吹《ふ》いて松《まつ》の花粉《くわふん》が埃《ほこり》のやうに濕《しめ》つた土《つち》を掩《おほ》うて、小麥《こむぎ》の穗《ほ》にもびつしりと黴《かび》のやうな花《はな》が附《つ》いた。百姓《
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