《し》らねえから仕《し》やうねえ、田耕《たうね》え始《はじ》まりにやおとつゝあ等《ら》見《み》てえな手《て》だつてかうえに出《で》んだか見《み》ろ。それ痛《いて》えの我慢《がまん》しい/\行《や》りせえすりや固《かた》まつちあんだ」勘次《かんじ》は自分《じぶん》の手《て》をおつぎへ示《しめ》した。
「おつかゞ無《な》くなつて困《こま》んな汝《われ》ばかしぢやねえんだから」勘次《かんじ》は暫《しばら》く間《あひだ》を置《おい》てぽつさりとしていつた。
「身上《しんしやう》の爲《ため》だから汝《われ》も我慢《がまん》するもんだ、見《み》ろ汝等處《わツらとこ》ぢやねえ、武州《ぶしう》の方《はう》へなんぞ遣《や》られて泣《な》き拔《ぬ》いてるものせえあら」と彼《かれ》は又《また》辛《から》うじていつた。大人《おとな》しく默《だま》つて居《ゐ》たおつぎは
「武州《ぶしう》ツちやどつちの方《はう》だんべ」寧《むし》ろあどけなく聞《き》いた。
「あつちの方《はう》よ、汝《われ》が足《あし》ぢや一日にや歩《ある》けねえ處《ところ》だ」勘次《かんじ》は雨戸《あまど》の方《はう》を向《む》いて西南《せいな
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