」勘次《かんじ》は抑制《よくせい》した或《ある》物《もの》が激發《げきはつ》したやうに直《すぐ》に打消《うちけ》した。
 勘次《かんじ》は家《いへ》に戻《もど》ると飯臺《はんだい》の底《そこ》にくつゝいて居《ゐ》る飯《めし》の中《なか》から米粒《こめつぶ》ばかり拾《ひろ》ひ出《だ》してそれを煙草《たばこ》の吸殼《すひがら》と煉合《ねりあは》せた。さうして針《はり》の先《さき》でおつぎの湯《ゆ》から出《で》たばかりで軟《やはら》かく成《な》つた手《て》の肉刺《まめ》をついて汁液《みづ》を出《だ》して其處《そこ》へそれを貼《は》つて遣《や》つた。
「しく/\すんな」おつぎは貼《は》つた箇所《かしよ》を見《み》ていつた。
「液汁《みづ》出《だ》したばかりにやちつた痛《えて》えとも、その代《けえし》すぐ癒《なほ》つから」勘次《かんじ》はおつぎを凝然《ぢつ》と見《み》てそれからもう鼾《いびき》をかいて居《ゐ》る與吉《よきち》を見《み》た。
「肉刺《まめ》なんぞ出《で》たらば出《で》たつておとつゝあげいふもんだ、他人《ひと》のげなんぞ見《み》せたりなにつかするもんぢやねえ、汝等《わツら》なんにも知
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