ほんによな、痛《いた》かつぺえなそりや、そんでもおつかあが居《ゐ》ねえから働《はたら》かなくつちやなんねえな」女房《にようばう》は慰《なぐさ》めるやうにいつた。
「おつかあのねえものは厭《や》だな」おつぎはいつて勘次《かんじ》を見《み》ると直《すぐ》に首《くび》を俛《たれ》た。勘次《かんじ》は側《そば》で凝然《ぢつ》とそれを聞《き》いて居《ゐ》た。
「おつう等《ら》だつて今《いま》に善《え》えこともあらな、そんだがおつかゞ無《な》くつちや衣物《きもの》欲《ほ》しくつても此《これ》ばかりは仕《し》やうがねえのよな」女房《にようばう》はいつた。勘次《かんじ》は其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》ことは云《い》はずに居《ゐ》て呉《く》れゝばいゝのにと思《おも》ひながら六《むづ》か敷《し》い顏《かほ》をして默《だま》つて居《ゐ》た。
「此《こ》の肉刺《まめ》はとがめ[#「とがめ」に傍点]めえか」おつぎは手《て》の平《ひら》の處々《ところ/″\》に出《で》た肉刺《まめ》を見《み》て心配相《しんぱいさう》にいつた。
「何《なん》でとがめるもんか
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