た。それで歸《かへ》りの手桶《てをけ》が輕《かる》くなつた時《とき》は勘次《かんじ》の好《す》きな酒《さけ》がこぼ/\と罎《びん》の中《なか》で鳴《な》つて居《ゐ》た。お品《しな》は酒店《さかだな》へ豆腐《とうふ》を置《お》いては其《その》錢《ぜに》だけ酒《さけ》を入《い》れて貰《もら》ふので豆腐《とうふ》の儲《まう》けだけ廉《やす》い酒《さけ》を買《か》つて勘次《かんじ》を悦《よろこ》ばせるのであつた。それはお品《しな》の死《し》ぬ年《とし》のことだけである。お品《しな》は漸《やうや》く商《あきなひ》を覺《おぼ》えたといつて居《ゐ》たのはまだ其《そ》の夏《なつ》の頃《ころ》からである。初《はじ》めは極《きま》りが惡《わる》くて他人《たにん》の閾《しきゐ》を跨《また》ぐのを逡巡《もぢ/\》して居《ゐ》た。其《そ》の位《くらゐ》だから變《へん》な赤《あか》い顏《かほ》もして餘計《よけい》に不愛想《ぶあいさう》にも見《み》えるのであつたが、後《のち》には相應《さうおう》に時候《じこう》の挨拶《あいさつ》もいへるやうに成《な》つたとお品《しな》は能《よ》く勘次《かんじ》へ語《かた》つたのであ
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