る。勘次《かんじ》は追憶《つゐおく》に堪《た》へなくなつてはお品《しな》の墓塋《はか》に泣《な》いた。彼《かれ》は紙《かみ》が雨《あめ》に溶《と》けてだらりとこけた白張提灯《しらはりちやうちん》を恨《うら》めし相《さう》に見《み》るのであつた。
 勘次《かんじ》は悄《しを》れた首《くび》を擡《もた》げて三|人《にん》の口《くち》を糊《のり》するために日傭《ひよう》に出《で》た。彼《かれ》は能《よ》く隣《となり》の主人《しゆじん》に使《つか》つて貰《もら》つた。米《こめ》は屹度《きつと》彼《かれ》が搗《つ》かせられた。上手《じやうず》な彼《かれ》は減《へ》らさないでさうして白《しろ》く搗《つ》いた。彼《かれ》は時《とき》としては主人《しゆじん》のうつかりして居《ゐ》る間《ま》に藏《くら》から餘計《よけい》な米《こめ》を量《はか》り出《だ》して、そつと隱《かく》して置《お》いて夜《よる》自分《じぶん》の家《いへ》に持《も》つて來《く》ることがあつた。それも僅《わづ》か二|升《しよう》か三|升《じよう》に過《す》ぎない。其《そ》の位《くらゐ》では主人《しゆじん》の注意《ちうい》を惹《ひ》くに
前へ 次へ
全956ページ中169ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング