》は一寸《ちよつと》見向《みむ》いたきりで歸《かへ》つたかともいはない。勘次《かんじ》が草臥《くたび》れた容子《ようす》をして居《ゐ》るのが態《わざ》とらしいやうに見《み》えるので卯平《うへい》は苦《にが》い顏《かほ》をして、火《ひ》の消《き》えた煙管《きせる》をぎつと噛《か》みしめては思《おも》ひ出《だ》したやうに雁首《がんくび》を火鉢《ひばち》へ叩《たゝ》き付《つ》けた。吸穀《すひがら》がひつゝいてるので彼《かれ》は力《ちから》一|杯《ぱい》に叩《たゝ》きつけた。勘次《かんじ》にはそれが當《あ》てつけにでもされるやうに心《こゝろ》に響《ひゞ》いた。
「おつぎみんなでも嘗《な》めさせろ、さうして汝《われ》も嘗《な》めつちめえ、おとつゝあ稼《かせ》えで來《き》たから汝等《わつら》も此《こ》れからよかんべえ」卯平《うへい》はいつた。勘次《かんじ》は漸《やうや》く歸《かへ》つた其《そ》の箭先《やさき》にかういふことで自分《じぶん》の家《うち》でも酷《ひど》く落付《おちつ》かない、こそつぱくて成《な》らない心持《こゝろもち》がするので彼《かれ》は足《あし》も洗《あら》はずに近所《きんじよ》へ
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