與吉《よきち》はそれを大事相《だいじさう》に持《も》つては時ゝ《とき/″\》覗《のぞ》きながら、おつぎが炊事《すゐじ》の間《あひだ》を大人《おとな》しくして坐《すわ》つて居《ゐ》るのであつた。

         六

 春《はる》は空《そら》からさうして土《つち》から微《かすか》に動《うご》く。毎日《まいにち》のやうに西《にし》から埃《ほこり》を捲《ま》いて來《く》る疾風《しつぷう》がどうかするとはたと止《とま》つて、空際《くうさい》にはふわ/\とした綿《わた》のやうな白《しろ》い雲《くも》がほつかりと暖《あたゝ》かい日光《につくわう》を浴《あ》びようとして僅《わづか》に立《た》ち騰《のぼ》つたといふやうに、動《うご》きもしないで凝然《ぢつ》として居《ゐ》ることがある。水《みづ》に近《ちか》い濕《しめ》つた土《つち》が暖《あたゝ》かい日光《につくわう》を思《おも》ふ一|杯《ぱい》に吸《す》うて其《その》勢《いきほ》ひづいた土《つち》の微《かす》かな刺戟《しげき》を根《ね》に感《かん》ぜしめるので、田圃《たんぼ》の榛《はん》の木《き》の地味《ぢみ》な蕾《つぼみ》は目《め》に立《た》たぬ
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